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乳がんに向き合うとは
患者さんの一生に向き合うということ。

院長 黒木 祥司SHOJI KUROKI

福岡初の乳腺クリニックを開業した理由。

乳がんは長くつきあっていく必要のある病気です。早期に適切な治療をできれば寿命をまっとうできるほど長く生きられる病気である一方で、他のがんと違って20年以上経っても再発を警戒する必要があるため、定期的な通院が必要です。今、通院されている患者さんの中で、一番長いお付き合いの方はもう30年以上。出会った時は30代だった彼女も、もう60代。30年以上経った今も半年に1回、健診に来て頂いており、その方の人生の半分をともに歩んでいることになります。乳がんの治療に向き合うということは、医者として患者さん一人ひとりの人生と向き合うことだと、つくづく実感しています。

そもそも私が当院を開業したのは、患者さんと長期間じっくり向き合いたいという想いからです。これまで長い間、大学病院で乳腺専門医として診療に携わり、多くの患者さんと向き合ってきました。しかし、乳がんの患者さんは年々増える一方、大学病院だけでは手術後の患者さんを継続的に見ていくことが難しくなってきました。その中で芽生えたのが、自分が治療した患者さんを責任を持って見守っていきたいという想いです。当時は福岡県内に乳腺専門医のクリニックがなく、手術後も長期にわたって通えるような場所がありませんでした。これは患者さんにとって大きな負担です。そこで、検診から乳がんの診断、手術、抗がん剤治療、ホルモン治療、再発治療まで一貫して対応できるクリニックを作らなければという想いで開業したのが、この黒木クリニックです。

開業から15年を経て定着したテーラーメイド医療。

乳がんの治療法は、時とともにどんどん進化しています。昔は乳がんになったら乳房をすべて切除する以外選択肢がありませんでしたが、30年ほど前から、患部を切除しつつ筋肉や乳房をきれいに残す乳房温存術が一般的になっています。また、乳房がどうしても残せない場合は乳房を切除するのと同時に再建する乳房再建術も選択できるようになっています。

私が開業当時から提唱し続けていたテーラーメイド医療も、今ではすっかり定着しました。おしきせの医療ではなく、患者さん一人ひとりに合わせた治療法の選択や薬の処方を行なっていき、QOLにも配慮した治療が、今は一般的になっています。

また、当院では、少しでも患者さんの負担を減らすため、初診も含めて完全予約制とし、待ち時間を少なくするよう工夫しています。お仕事などの都合がある方のために土曜も午前中に抗がん剤の点滴などの治療に対応。地域の開放型病院とも連携しながら、幅広い治療・診療に対応しています。

遠方からも患者さんが続々と…一生メスを握り続けると決めた。

昭和62年から乳がんの治療に携わり、平成19年に福岡で初めての乳腺クリニックを開業しました。おかげさまで当クリニックは九州における乳がん治療クリニックの草分け的存在として、皆さんから認知されるようになりました。今では福岡県内はもちろん、長崎、佐賀、鹿児島、熊本、時には山口や広島からも患者さんが来てくださいます。診察や検査の結果乳がんの診断がついた場合、手術は希望があればがんセンターや大学病院などへご紹介することも可能ですが、ほとんどの患者さんが私に手術の執刀を依頼されます。
乳がんは手術をして終わりではなく、その後の長期間の内分泌治療や経過観察が重要です。私が執刀したからには、その後10年以上、患者さんをみていく責任がある。自分の年齢を考えて、いつかメスを置く日を決めなければ…という葛藤が、心の隅にありました。しかし幸いにも後継者が決まり、この先、私がいなくなっても患者さんを長期的に支えていける体制が整いました。患者さんを置き去りにする心配が晴れ、私の手術を望む人が一人でもいる限り、身体が動くうちは、生涯手術室に立ち続けようと決めました。

嬉しいことに、今は当院以外にも各地で少しずつ乳腺クリニックが増えてきています。私が、すべての乳がん患者さんに伝えたいことは、標準的な治療を受けてほしいということです。「標準治療」というと「なんだ、普通の治療なのか。それならもっといい治療があるかも」と思ってしまうかもしれませんが、医療で言う「標準治療」とは現時点で科学的な根拠に基づいておすすめできる最善の治療のことです。新しい研究や治療法、薬がどんどん生まれていくなか、近年の乳がん治療の進歩はめざましく、新しい治療法や薬が次々に生まれていくなかで「本当に効果があるか」「多くの人に効果が認められるか」を専門家がきちんと検証したうえで「標準治療」も定期的に更新されています。「標準治療」こそが、いまこの時点でもっとも安全性が高く、有効性の期待できる治療であるとともに、経済的負担も少ない治療方法であると自信をもって申し上げられます。
乳がんの治療法は乳がんの進行度合い、乳がんの性質、患者さんの状態によって異なります。乳腺の専門医は、ひとりひとりの患者さんを最適な治療法へと導く案内人です。どうか不安を一人で抱え込まず、エビデンス(科学的根拠)のない情報に惑わされず、「標準的な治療」を受けてほしい。自分が通いやすい、通いたいと思えるクリニックと出会い、決して短くはない治療の道のりを、信頼できる担当医とともに歩んでほしいと思います。